「冴子の東京物語」氷室冴子 より

忘れたいことは いつも無数にある

なのに思いもかけない符牒でですべてを甦らせてしまう

記憶のシステムを私は不思議にも憎らしく思う

(中略)

そういう記憶が楽しいものばかりであるのには

私はまだ、少し若すぎるのかもしれなくて

「昔、生きるとは何かッと、眼血走らせてたけど、

要するに、生きるって生活することだねえとか話してさ。

十年経ってわかったことって、それくらいね。

あと十年後にみんなどうなってると思う?」

わからないな、と私は答えた。

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