そう言えば赤子は泣き叫び誕生する。
我々も悲惨な状態に陥ると泣いたり、叫んだりする。
あの時、我々は絶望しそうになりながらも再び誕生しようとしているのかもしれない。
自分の存在意義を見失う時の多くは
世界を測る支点を他者に置いている。
その支点が安定していなければ、自分を見失ってしまう。
何か精神的な動揺があり、何も考えられずにいる状態がある。
自分という容れ物の中には解決策は無く、
いつまでも原因の粒子が容れ物に残ったままの時がある。
そういう時は、容れ物を拡げたり壊したりして、もっと大きな世界に
原因の粒子を混ぜて循環させたり、中和させる必要がある。
苦しい時に、山や川などの自然に身を置くとストレスが和らぐという経験は誰もがあると思うが、
この「舟の街」は、古代から現代まで続く自然信仰や神話との根底で共通する神話だと思った。
「炎上する君」西加奈子 又吉さんの解説より
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東京は果てしなく残酷で時折楽しく稀に優しい。
ただその気まぐれな優しさが途方もなく深いから嫌いになれない。
中略
この先、仕事が無くなる事も、家が無くなる事もあるだろう。
だが、ここに綴った風景達は、きっと僕を殺したりはしないだろう。
僕も「こうするべきだ」と誰かが言う事を、自分が信じられない場合はやらない。
自分が信じる方法でしかやりたくない。
「普通」をやる事の難しさ。
自我を貫くには恥を棄てる勇気が必要である事。
それでも自然体を演じるくらいなら死んだほうがましだという事。
結局好きなことをやるしか道は無いという事。
つまり何をしようと苦痛が伴うという事。あと思ったより良い奴がいた事。
「東京百景」より
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更に成長し刑務官になった主人公が死刑中の山井に言った言葉である。
「人間と、その人間の命は、別のように思うから。…殺したお前に全部責任はあるけど、そのお前の命には責任はないと思ってるから。
お前の命というのは、本当は、お前とは別のものだから」
どうだろう。命について考えた時、僕はこれしかないと思った。
これこそが真理だと思った。
太古から続く生命の連なりの一端に自分が存在していると考えれば、
それだけが生きる意味はある。
己という存在を超えて、「命」そのものに価値があると言って貰えると随分心強く感じた。
「何もかも憂鬱な夜に」中村文則 解説:又吉直樹 より